■閑話 「ミメシスとは、サイ現象の一種だよ」 「ESP、PK、サイ情報……これは心理的要素を多く含むカテゴリなんだけど」 「他にも物理的、生物的な変化を伴うものも、それら全てひっくるめて僕らはミメシスと呼ぶ」 「一般的に認知されているサイ現象との違いは、発現する際に可視光での発光現象を伴うか否か……ということになっているよ」 「事の起こりは半世紀以上前、まだミメシスと呼ばれるずっと前。大戦中の枢軸国で研究されていたものだよ。士官育成学校に取り入れられたそれは、ユーベルメンシュ(超人)を作り出すといわれていた」 「ま、結局戦時中に日の目を見ることはなくて、戦争にも負けちゃったんだけど」 「戦後、その技術は西側のとある国と東側のとある国が取り合い、競って開発が進められたんだ……この辺の話は有名だし君のほうが詳しいかもね」 「そんなに詳しくは無いぞ、学生時代にその類の書籍を読み漁ったくらいで……」 「ほら、居たろ、なんとかって偉い教授」 「それなら話は早そうだね。僕らの定義も、大部分が彼の研究に基づくものだ」 「さて、そんな夢のあるサイ現象だけど、現在はあまりおおっぴらには……というか、公的機関ではほぼ関わっていないんだ」 「その危険性に気が付いたか、はたまた有用すぎて秘匿したか……」 「単純に使えなかったからだろ?」 「まぁ、そうなんだよね」 「君は分かってるだろうけど、戦場じゃ一点特化よりも判で押した様な画一性が求められるものなんだ」 「部隊として動かしやすいし、KIAした人員の補充もしやすいからね」 「サイ現象っていうのは、個人個人に違いがありすぎたんだよ。同じポジションの補充もきかない。何処かが欠けたら瓦解する。それじゃ信頼出来ないよね」 「さらに、技術の進化によって、戦場は兵隊同士のドンパチから電子・情報戦に姿を変えつつあったこと、無人兵器の台頭、さらに戦後、人命が急激に重いものとして扱われるようになった事もあって、人体に手を加えないと使えなかったサイ現象は、次第に忌避され、忘れられていったのさ」 「ま、最大の難点は、当時、彼らのほとんどが「びっくり人間」の域をでなかったこと。普通の兵隊にジャケット着せて鉄砲持たせる方が圧倒的にコストが安いんだからね」 「そういうわけで、今では一部の民間組織がほそぼそと研究するにとどまるよ」 「兵器としてではなく、現象そのものの謎を解明する為にね」 「兵器としてはこれからも使えそうにはないよね。一番活躍することがわかっているのは、テロリストの一番槍くら……おっと、コレはオフレコでよろしく」 「……」 「そんな不遇の歴史を歩むサイ現象・能力だけど、ここ10数年で飛躍的に研究が進むことになる」 「ミメシスの発見だな」 「そう」 「前置きはこれくらいでいいよね? ここからミメシスの説明をしていくよ」 「……エーテルって言葉に聞き覚えはあるかな?」 「いきなり話が飛んだな……」 「神話の中で天界を構成してるとかいう謎物質だったか……あと、19世紀くらいまで信じられていた、「光を伝達するために空間に満たされている触媒のようなもの」ってのもあったな」 「まぁ、そんな所だよね。後者に結構近いかな」 「今じゃ与太話として広く認知されているけど、あれが与太話じゃないと言う前提で聞いてね」 「で、エーテルが何処に存在するかって話になるんだけど、空間っていうのは、この世界全てをひとつなぎにしているわけじゃない。ある一定の大きさで区切られていると仮定して欲しい」 そう言うと、山田は自身ブラウン管をちかちかとさせて、何処かの街の空撮写真を表示させた。 京都の街並みのような、碁盤の目状の平地が広がっている。 「少し昔のゲームとか想像して貰えばいいかな、ダンジョンをある程度進むと画面が切り替わるでしょ? あんな感じだね。 僕らには知覚出来ないわけだけど」 画面では、中央のビルを中心に、一定の区間がピンク色に着色される。 「その区切られた空間を一つのブロックだと考えて欲しい。それが無数に集まっている」 周囲の区間も別の色に着色され、カラフルな積み木が敷き詰まったような状態になる。 「つまり、 世の中っていうのは実はシームレスじゃないって事か?」 「うーん、その辺は、あくまでミメシスを説明する上での仮定の話として聞いてくれればいいよ」 「とにかくそれで、そのブロックの一つ一つには、オブジェクト(物体)が存在出来る許容値があるんだよ。許容値を超える量のオブジェクトは置けない」 「いよいよゲームじみてきたな」 「まあ、実際は許容値を超えてしまう事は殆どないよ」 画面では、先ほどの一区画がズームアップされ、0/100と書かれたピンク色のブロックが表示されていた。 そこにビルを模したカタマリが放り込まれていく。まるでおもちゃ箱の様だ。 カタマリにも、それぞれ数字が書かれており、ブロックに放り込まれるごとにブロックの数字が増えていく。ある程度放り込まれたところで止まった。 「こうして、目一杯までオブジェクトを詰め込んだ場合、どうしても空間を100%まで使いきれないんだ」 「この例の場合、残りには「何もない空間の空き」が発生する。でも、この「空間の空き」って言うのは存在出来ないんだよ」 「空間っていうのは、中身が目一杯詰まっていないと外圧で自壊してしまうように出来ているんだ。だから余った空間には、何か代わりに緩衝材のようなモノを詰めなくちゃ形を維持出来ないのさ」 「そうして生じたのがエーテルって事か」 「そう」 「エーテルは、空間の「空き」の代わりに存在しているんだ」 「そういう性質上、存在が未確定なモノに対して影響が高く、反応を促しやすい。だから触媒と言われるんだよ。光なんかは知覚できるぶん分かりやすい例で、あとは……」 「インフォメーション(情報)」 「ご名答」 「情報っていうのは、非常に強力なエネルギーを持つモノであるにも関わらず、形を持たない。エーテルととても相性がいいんだよね」 「通常だったらエーテルと情報が反応し合う事は無いんだけど……」 「特定の人間の脳を経由……感情という指向性を与えられる事で反応することが出来るんだな」 「その通りさ」 「そうして反応したエーテルと情報、双方は消費され、その空いた分だけ「何か」が空間に補填される事になる」 「当然、その補填される「何か」には感情という要素が関わってくる訳で……」 「言語外のコミュニケーションツールだったものが形となって発生するわけか」 「だから「ミメシス」なんて呼ぶわけだな」 「そゆこと」 その2へ進む⇒ top |